開成【理科】2022-3

問題

次の文章は1909年にノーベル化学賞を受賞したドイツの化学者オストワルドが、はじめて化学を学ぶ子供たちに向けて、1903年に書いた著作「化学の学校」の一節です。先生との会話文を通して、化学という学問はあらゆる物質の学問であり、化学を学ぶことは森の中を散歩するように楽しいことだと教えています。のちの問いに答えなさい。

生徒)それでは一体物質とは何ですか。
先生)それは一言では言えない。では君が実際物質というものを知らないのか、それともそれをうまく言えないのか、一つ試してみよう。これは何ですか。
生徒)砂糖だと思います。
先生)なぜそう思う?
生徒)そうですね。ビンの中の砂糖にそっくりだからです。ちょっとなめさせて下さい。ーあ、これは砂糖です。甘い味がします。
先生)まだその他に砂糖と識別する方法を知っていますか
生徒)はい、指につけるとベトベトします。これも実際ベトベトします。
先生)実際に君が何かしら物質を手に渡されて、それが砂糖かどうかと聞かれた時には、いつもそういう方法で判定することができます。すなわちまず外観や味により、またさらに粘着性によってそれを知るわけです。この識別の目印のことをそのものの性質と呼びます。私たちは砂糖をその性質によって知るのです。砂糖は一つの物質です。すなわち私たちは物質をその性質によって認識するのです。ーところで君は物質の持つ全ての性質が物質の認識に役立つと思いますか。
生徒)そう思います。性質が分かっていればー
先生)ではもう一つ見てみよう。砂糖にはただ一種しかないでしょうか。ーそうではない。氷砂糖というものを知っているでしょう。あの大きな塊になっている砂糖。それから粉砂糖。あの白砂のような粉状のもの。どちらも砂糖です。というのは、氷砂糖を乳鉢の中で砕くと粉砂糖ができるからです。
生徒)あ、なるほど、両方とも同じものなんですね!
先生)両者は「同一の物質」砂糖です。しかしその性質のうち一つは変わってしまいました。物体の持つ形も一つの性質です。これは勝手に変えることができます。しかし物質は依然として変わらずにいます。また分量についても同様です。たとえビンの中に砂糖がいっぱい入っていようが、あるいはほとんど空っぽであろうが、その中にあるものはいつも砂糖です。すなわち形と分量とは物質を認識すべき性質とはならないのです。ー砂糖は温かいか、冷たいか?
生徒)わかりません。ーどちらにでもなるんではありませんか!
先生)そうです。温かいとか冷たいとかは物質の認識に役立つ性質ではありませんか!
生徒)それはそうですね。考えてみると砂糖は大きくも小さくも、暖かくも冷たくも自由にできますね。
先生)そうですね。それでようやくはっきりしましたね。ものの性質の中には変えることのできないものがあります。砂糖が甘みを持つことや指にベトつくことは、いつも砂糖に見られることがらです。しかしその大きさや、形や、その温度は変えることができます。どんなものでも一定不変の性質を持っています。そしてどんなものでもこの一定不変の性質をもっているものには、その物質の名前が与えられます。この際、その物質が温かくても冷たくても、大きくても小さくても、またその他どんな可変の性質をもっていようと、それは関係しないのです。しばしば③物はその用途や形によってその物質とは異なった名前がつけられていますが、そんな場合にもそれは一定の物質からできていると言います
生徒)どうも全部はわかりません。
先生)これは何ですか。またあれは?
生徒)針とハサミです。
先生)それらは物質ですか?
生徒)よくわかりません。ーどうも、物質じゃないようです。
先生)わかりにくい時には、いったいこの物は何からできているかと考えてみればよい。するとたいがい物質の名前が頭に浮かびます。針とハサミは何からできていますか。
生徒)鉄です。では鉄は物質ですか。
先生)そうです。鉄のひとかけらはやはり鉄です。たとえ大きくても小さくても、冷たくても温かくても鉄にちがいありません。
生徒)それならば紙も物質であるはずです。それは本も紙からできていますから。木質も机を形成しているので物質です。そしてレンガも物質です。暖炉はレンガからできていますから。
先生)最初の二例は正しい。でも最後のはいけない。レンガは砕いてもなおレンガですか?そうではない。レンガという名前はある形を備えたものに与えられているもので物質ではありえない。ところでレンガは何から作りますか。
生徒)粘土から。
先生)粘土は物質ですか。
生徒)そうですーいやーやはりそうです。というのは粘土を砕いてもやはり粘土のままでいます。
先生)まったくその通り。そのやり方で、当分のうちは疑問が起きても用が足ります。すなわち、まず何から物ができているかと考え、そして答えを得たならば、さらに砕いた場合にもそのままでいるかどうかを考える。そのとき何ら変わりがなければそれが物質なのです。

オストワルド 著/都筑洋次郎 訳『化学の学校 上』(岩波書店)

問1 下線部①に関連して、別々の試験管にとった食塩水と炭酸水を識別するためにある方法で実験したところ、次のような結果になりました。ある方法とはどんな方法ですか。5文字以内で答えなさい。
結果「片方の試験管の中には白い粒だけが残ったが、もう片方は何も残らず空になった。」

問2 下線部②について、ここで述べられている「可変の性質」の例として適当なものを、次のア〜オからすべて選び、記号で答えなさい。
ア 20℃の水100㎤に溶けるミョウバンの最大の重さ
イ 氷ができ始める温度
ウ 砕いた氷砂糖のひとかけらの体積
エ アンモニアのつんとするにおい
オ 窓ガラスの表面温度

問3 下線部③の例として「ドライアイス」があります。ドライアイスを温めると気体に変わります。この気体は、石灰水を白くにごらせる性質があります。「ドライアイス」を形成している物質の名前を答えなさい。

問4 下線部④のやり方によって物質と考えられるものを次のア〜オからすべて選び、記号で答えなさい。
ア ガラス
イ ペットボトル
ウ 割りばし
エ コップ
オ 銀

問5 この文章に登場する「先生」は、物質かどうか決めたい時、まずどうすればいいと言っていますか。最も適当なものを次のア〜エからすべて選び、記号で答えなさい。
ア その物をどのように利用しているかを考える。
イ その物が何からできているかを考える。
ウ その物がどこでできたかを考える。
エ その物をいつできたかを考える。

問6 この文章に登場する「先生」は、化学であつかう「物質」は何をもっていると言っていますか。文章中から7文字で抜き出しなさい。

情報整理・分析における思考の流れ

最初に長い論説や会話文を読ませ、その文についての問題を解かせる。まさに国語的な問題。難関校の理科では基本的な知識や用語など、解答としてはほとんど問われません。誰でもできて点差がつかないからという面もあるでしょうが、例年の問題を研究していると、そもそも理科という教科が、どれくらい暗記してきたかということを問う教科ではないことを表現していると感じます。中学受験において難関校を目指す子ほど、勉強はもちろん日常の生活も含めて、物事をいかに原理的に論理的に考える時間を過ごしているかが問われているのではないでしょうか。子どもが自動的にそのような考えができるようになることはないでしょうから、ほとんどの場合、周りの大人や先生の考えに依存してしまいます。

問1 下線部①に関連して、別々の試験管にとった食塩水と炭酸水を識別するためにある方法で実験したところ、次のような結果になりました。ある方法とはどんな方法ですか。5文字以内で答えなさい。
結果「片方の試験管の中には白い粒だけが残ったが、もう片方は何も残らず空になった。」

蒸発乾固(加熱する)

問2 下線部②について、ここで述べられている「可変の性質」の例として適当なものを、次のア〜オからすべて選び、記号で答えなさい。
ア 20℃の水100㎤に溶けるミョウバンの最大の重さ
イ 氷ができ始める温度
ウ 砕いた氷砂糖のひとかけらの体積
エ アンモニアのつんとするにおい
オ 窓ガラスの表面温度

文中より「可変の性質」→変えることができるもの と読み取れます。
ウ、(エ)、オ
※アンモニアは融点(-77.73 °C)沸点(-33.34 °C)なので、極低温下では気体以外の状態なのでにおいはしません。また、気圧条件が問題文中に示されていないないので、圧力が可変の場合、ア、イも可変の性質となります。

問3 下線部③の例として「ドライアイス」があります。ドライアイスを温めると気体に変わります。この気体は、石灰水を白くにごらせる性質があります。「ドライアイス」を形成している物質の名前を答えなさい。

二酸化炭素

問4 下線部④のやり方によって物質と考えられるものを次のア〜オからすべて選び、記号で答えなさい。
ア ガラス
イ ペットボトル
ウ 割りばし
エ コップ
オ 銀

文中に「何から物ができているかと考え、そして答えを得たならば、さらに砕いた場合にもそのままでいるかどうかを考える。そのとき何ら変わりがなければそれが物質なのです。」とあります。
ア、オ

問5 この文章に登場する「先生」は、物質かどうか決めたい時、まずどうすればいいと言っていますか。最も適当なものを次のア〜エからすべて選び、記号で答えなさい。
ア その物をどのように利用しているかを考える。
イ その物が何からできているかを考える。
ウ その物がどこでできたかを考える。
エ その物をいつできたかを考える。

問6 この文章に登場する「先生」は、化学であつかう「物質」は何をもっていると言っていますか。文章中から7文字で抜き出しなさい。

一定不変の性質

<ノーベル賞とコロナウィルス>

ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベルの遺言に従って1901年から始まった世界的な賞であるノーべル賞。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野+1分野」で顕著な功績を残した人物に贈られます。この問題に登場するオストワルドは触媒の研究を行い、肥料や爆薬の大量生産を可能にした硝酸の製法であるオストワルト法を考案した。オストワルト法は現在でも硝酸の工業的製法として重要である。

2022年現在、全世界を翻弄しているコロナ禍。2019年12月武漢から始まったとされるコロナウイルスの話題は今後何年も中学受験にとどまらず入試問題において時事問題として扱われることでしょう。コロナウイルスに関連したノーベル賞をいくつか見ていきましょう。

1905年ノーベル生理学・医学賞
ロベルト・コッホは、ドイツの医師、細菌学者。当時は細菌学の第一人者とされ、ルイ・パスツールとともに、「近代細菌学の開祖」とされる。炭疽菌、結核菌、コレラ菌の発見者である。純粋培養や染色の方法を改善し、細菌培養法の基礎を確立した。寒天培地やペトリ皿(シャーレ)は彼の研究室で発明され、その後今日に至るまで使い続けられている。また、感染症の病原体を証明するための基本指針となる、「コッホの原則」を提唱し、感染症研究の開祖として医学の発展に貢献した。

「コッホの4原則」
1.ある一定の病気には一定の微生物が見出されること
2.その微生物を分離できること
3.分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること
4.そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること

1993年ノーベル化学賞
キャリー・マリスは、アメリカ合衆国の生化学者。DNAを指数関数的に増幅するポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) 法の開発した。
PCR検査は現在、犯罪捜査や出生前遺伝子診断、新型コロナウイルス感染症の検査などにも使われています。生前、繰り返しPCR検査を感染症の診断に使ってはならないと警告し、使い方によっては誰でも犯人にすることができると述べています。2019年8月 死去

2008年ノーベル生理学・医学賞
フランスのウイルス学者である、リュック・モンタニエは、エイズ患者のリンパ節から採取したサンプルの中に、後にヒト免疫不全ウイルス(HIV)として知られる新たなウイルスを発見・分離した。また、このウイルスがエイズを引き起こす原因であると解明したのはアメリカのウイルス学者ロバート・ギャロのグループであるとされている。2022年2月 死去

2015年ノーベル生理学・医学賞
日本の化学者である大村 智は、微生物の生産する有用な天然有機化合物の探索研究を45年以上行い、これまでに480種を超える新規化合物を発見し、それらにより感染症などの予防・撲滅、創薬、生命現象の解明に貢献している。抗寄生虫薬としてイベルメクチンを開発し、寄生虫感染症の治療法確立に貢献した。

2022年 中学入試 【算数・理科】注目問題「情報整理・分析における思考の流れ」トップページ